ハッセルブラッド 907X CFV II 50C と XCDレンズ 4/45P の話。
まず、残念ながら僕の今の保有機材ではこのカメラが持つ本来の魅力 (ハッセルブラッド旧システムとの組み合わせ) をレビューすることができない。それでも何かに参考になればと書いてみたが、個人の感想文的な読み物になってしまった。あらかじめ前置きしておくので悪しからず。その代わりに、作例なんかをちょこっとだけ。
憧れのハッセルブラッド
このカメラは、現代のデジカメでありながら古いハッセルブラッドシステムと組み合わせが可能である。そのため、フィルムカメラ時代からハッセルブラッドを使っている人にとっては、その資産をデジタルでも活用できることになるので、実に魅力的な製品だと思う。
一方の自分はと言うと、元々ハッセルブラッドユーザーだったわけではなく、レンズ資産はゼロからのスタートとなる。にもかかわらず、なぜこのカメラに手を出してしまったのか?
それは、ハッセルブラッドやローライフレックスのような中判カメラをウエストレベルで使う、あの姿に憧れていたから、だ。思い起こせば10数年前のあの日、山に一緒に行った後輩のN君がおもむろにローライフレックスを取り出し写真を撮り始めた勇姿を、ただただ指を加えて眺めているしかなかった自分。でも、これからはハッセルブラッドを使って僕自身が演者となれるのだ。
ハッセルブラッドは、北欧スウェーデン製のカメラである。初めてカメラに興味を持った学生時代、僕は貧乏だった。そして、バイトで稼いでやっとの思いで買ったカメラを金に困って売るようなことを繰り返していた。なので、ライカを始めハッセルブラッド、ローライフレックスなどの舶来品カメラなんてカメラ屋のショーケースで眺めるだけの高嶺の花だったし、時々そんなカメラを持っているおじさんを見ると、どうやったら買えるのかと不思議でならなかった。
サラリーマンになってからもお金の余裕などあるわけもなく、少しづつ買い揃えてはなんとか維持してきた国産のカメラシステムから離れる勇気もなかった。が、今回、しばらくのサラリーマン生活で溜まった疲れを癒すという名目でカメラを新調する際に、アレコレとカメラを見ているうちに、ふと昔の憧れ、切ない想いがビビビッと脳内で再生されてしまったのだ。
そうは言いながらも、実は買う直前まで同じ中判カメラのFujifilm GFXと迷っていた。近頃は主に富士フィルムのAPS-Cミラーレスカメラ (T-X4) を使っていて、そのフィルムシミュレーションがこれまた秀逸で気に入っていたからだ。
当然、同じフィルムシミュレーションが用意されているGFXは魅力的な対抗候補だったわけで、それなりに長いこと迷っていた。
が、結局のところ、職業カメラマンでもない人間がカメラを選ぶという行為においては、あれこれ星取り表を作って比較して得られた結果より、戦略的に保有機材との兼ね合いを計算して導き出した結果より、もっとシンプルに自身の想いや、触ってみたい、いじり倒してみたい衝動かなんかに駆られた時に、一番最適な答えが導き出されるものなのだ、たぶん。
そうして僕の場合は、憧れのカメラで写真を撮ってみたいという衝動に押し切られる形で、ハッセルブラッドを手にしたわけである。
原点回帰させてくれる
で、実際に使ってみてどうだったかというと、思った通りだった。なんというか、じっくりと考えながら写真を撮る喜びを思い出させてくれるカメラだったのだ。
907X 50Cは、機能的には現代のカメラとしては抜きん出るような存在ではない。オートフォーカスはコントラスト式なので、システムにとって得意な被写体であればピントはすぐにキマるが、不得意な被写体であればジージーといつまでも迷った挙句にピントを外したりする。また、瞳フォーカスだったり、シーンを自動で判断して設定してくれる機能だったり、手ブレ補正だったりの親切な機能もない。
そのため、シャッターチャンスを予測して予めカメラと一緒にスタンバイしておかなければチャンスを取り逃すし、またこれは普通のカメラも同様ではあるが、より自分の意図を脳内で設定値に変換してカメラに伝えないといけないし、状況によっては三脚を使うなどのお膳立てをするシーンも増える。何かと手間がかかるのだ。
でも、自分とカメラの協業がうまくキマると、思った通りあるいはそれ以上の画像を提供してくれる。
僕の場合は身体が国産の便利なカメラに慣れきっているから、普通のカメラで同じような不便利さを強いられるとストレスが溜まる。だけど907X 50Cが相手だと許せる。僕の中で、907X 50Cは憧れのカメラであり、じっくり写真を撮るためのカメラ、という形で既に定義されているので、ストレスよりもむしろ写真を撮る喜びの原点に回帰できて嬉しい、くらいに感じられるわけだ。
だから、逆にハッセルブラッドに憧れを持っていない方、素早く便利にシャッターチャンスを捉えたい方は、907X 50Cにストレスを感じると思う。その場合は、ハッセルブラッドであればX1D II50C、ないしは国産の最新カメラモデルを買うのが正解ということになるのだろう。
907X 50CのセンサはFujifilm GFX50S IIと同等のものを使っているらしい。また、XCDレンズも定評があるレンズのようなので、画質については素晴らしいものを得る事ができる。XCDレンズはクリアでカチっとした描写ができるそうだが、もしどこか温かみのあるオールドレンズの描写が欲しければ、生活を限界まで切り詰めてオールドレンズを買えばよいのだ。もちろん今はそんな余裕なんかないが、メカいじりや古いモノが好きな僕にとっては、いつかそのような選択ができるということだけで嬉しい。
正直言って、大きなポスターを作成するわけでもない自分には中判センサは手に余るスペックだが、トリミングしてもなお高画素を保てる状況というのはいざという時には後修正でなんとかなるという安心感に繋がる。また、特に家族写真についてはその時代時代でできるだけ高画素で記録しておきたいという想いもあるので、907X 50Cをいじる喜びと共に、このカメラの画質の面での恩恵もこれから十分に活用していきたいと思う。
それから最後にもう一つ。一眼レフなんかを自分の家族に向けると警戒されて逃げられてしまうことも多いのだが、ウエストレベルに構えた907X 50Cを向けても今のところ拒絶反応はわずかである。むしろ寄ってくる。猫ちゃんだって、ワンちゃんだって、アメンボだって寄ってくるんじゃないか。
もちろん、液晶をガバッと起こしてウエストレベルで構えればX-T4でも似たような効果があるだろうけど、907X 50Cは少し可愛らしくも見える箱型の形状なので、もしかしたら撮られる側の緊張も少し緩和されるのかもしれない。
逆に、この箱型の形状のために、アイレベルで構えた時には何か貢物の箱を恭しく捧げているような格好になって、なんだか気分も半減なんだよなぁ。
ちょっと気になったこと
冒頭で話をしたように、僕はそもそもハッセルの古いレンズ資産を持っているわけでもないので、本来このカメラが持つ魅力の部分についてのレビューができないことが悔しい。とは言え、何か些細なことでも参考にしてもらえることはないかということで、907X 50Cを使ってみていくつかちょっと気になったところを書いておこうと思う。
1. 電源ボタンが誤って押されやすい
液晶の下に並んだボタン群の一番右側が電源ボタンとなっているのだが、上の写真にあるようにすべてのボタンは同じ高さとなっている。電源ボタンが意図せず押されてしまうと、バッテリーが無駄に消費されて、いざという時に撮影機会の損失を招きかねない。
この辺りに気を配った設計だと、電源ボタンが押されにくいように他のボタンよりもボディ側に埋め込んだ形にしたり、ボタンの周囲にわずかな土手を設けたりするものだが、そこらへんの気配りは省略している模様。
僕は何度か液晶面を下にしてカメラバッグに収納していた際に、意図せず電源ボタンが押されてしまっていることがあったので、以来、できるだけ電源ボタンが押されない向きでカメラバッグ内に収めるようにしている。つまり、907X 50Cをカメラバッグに収納する場合には、液晶面を下にしないのがオススメ。
2. 絞りダイヤルが指から滑りやすい
カメラのフロント部分にシャッターボタンと同軸で絞りダイヤルがあるのだが、これが小さく滑りやすい。小さいことについては、こんな小さな領域に上手いことダイヤルを付けてくれたことに対する感謝の方が大きいので良い。しかも一部を革張りにするとか、なかなかオシャレに追求している。が、惜しいことにダイヤルの凹凸が浅過ぎて且つ鏡面仕上げとなっているものだから、簡単に指から滑ってしまうのだ。
まぁ、じっくり写真を撮る時であれば特に気にならないし、なんなら液晶上で絞り値をセッティングしても良いのだが、首にカメラをかけた状態でとっさに絞りを変えたい時には少し歯がゆい思いをすることがあった。
対応として、グリップ力を上げるためにゴムスプレーをお手前で塗布してしまおうかとも思ったが、失敗すると怖いのでまだ挑戦できていない。誰か良いアイデアがあれば教えてください。
3. ストラップの取り付け金具の向きが一般的なカメラと異なる
今まで僕が使ってきたカメラは、レンズの光軸と平行にストラップ取り付け金具の貫通穴が空いていたのだが、907X 50Cは、これらが直交方向になっている。別にいいっちゃいいのだが、この向きで付属の丸環を介してストラップをつけると、ウエストレベルで構えた時にどうにも丸環のキマりが悪く、少し安定感に欠けるしレンズや本体自身の重量で取り付け金具になんだか無理な力をかけてしまっているようで気になるのだ。
おそらくメーカーは、907X 50Cを首にかけて運搬する時には、レンズを下に向けることを想定して貫通穴の向きを決めたと思う。また、レンズを前向きにしたって取り付け金具が壊れないような強度は持たせているはずなので、これはホントに個人の気にしすぎなのだが、大事なカメラなので僕としてはスッキリしたいところ。
それで僕は、付属の丸環を使うのはやめて大きめの三角環に変えている。こちらの方がウエストレベルで構えた時の安定感が増して、また取り付け金具にかかる力も多少緩和されるハズ。三角環は、エツミのETSUMI E-412Rがちょうどいい感じ。
4. 本体とデジタルパックを固定するスライドボタンが不意に解除されてしまった事件
先日、カメラバックにこいつを入れていた時のこと。電車の時間を気にして小走りに走って駅に向かったのだが、バッグ内のカメラを見ると、本体とデジタルパックの留金が外れてるではないか。つまりセンサが目視できる状態。冷や汗ぶゎっ!だ。が、幸にも完全に分離するところまではいっておらず、センサも無傷だったので一安心。まずは改めて組み直してから原因を探った。
その時に僕はカメラを横向きに寝かす方向でバッグに入れていた。その向きだと小走りによってカメラが上下に動く向きとスライドボタンの動作方向が合致するので、どうも小走りの衝撃とスライドボタンがカメラバッグ内壁に引っかかったことが合わさって発生したようなのだ。(スライドボタンを動かすための力はそれなりに必要なので、決して設計がイマイチというわけではない)
この考察が正しいかどうか自信は持てないが、カメラバッグにいれる時のカメラの向きを変えてからは今のところ再発はない。結局のところ、先の電源ボタンの件と合わせて考えると、907X 50Cをカメラバッグに収納する時はカメラバッグの底面に対してレンズ面を下にして収納するのがベストなのかも。(最初からそうしとけよ、というのはナシで。)
締めくくり
ハッセルブラッド 907X 50Cは、ハッセルブラッドの旧システムを持っている方はもとより、フィルム時代のハッセルブラッドに憧れていた方にとっても、写真本来の楽しさを呼び起こしてくれるカメラだと思う。
ほぼ感想文のようになってしまい申し訳ないが、僕と同じようにハッセルブラッドに憧れ907X 50Cが気になっている方に対して、何か少しでも参考になることがあれば嬉しいな、ということで締めくくり。
ではでは。
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